高松地方裁判所 昭和43年(ワ)186号 判決 1969年8月27日
原告
森本一雄
外一名
代理人
佐藤進
被告
有限会社屋島タクシー
外一名
代理人
大野忠雄
主文
被告らは連帯して
原告森本一雄に対し金一五五万三、五〇〇円
原告森本幸子に対し金一四五万円、および右金員のうち、各金一三五万円に対する昭和四二年八月一日から、各金一〇万円に対する昭和四四年八月二八日から、各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
原告
被告らは連帯して、原告森本一雄(以下単に原告一雄という)に対し金二四五万五、六一五円、原告森本幸子(以下単に原告幸子という)に対し金二二七万一、一一五円および右金員のうち、各金二一七万一、一一五円に対する昭和四二年八月一日から、各金一〇万円に対する本件一審判決言渡の日の翌日から、各完済まで年五分の金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求めた。
被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 原告の請求原因
一、昭和四二年七月三〇日午前八時五〇分ごろ、香川県木田郡牟礼町大字牟礼三〇九七番地先道路(八栗寺参道)上において、被告菰淵繁治(以下単に被告菰淵という)の運転する営業用普通乗用自動車(香あ三四〇四号)が訴外森本美智子(当時満3.5年)(以下単に美智子という)に衝突し、そのため同人は脳挫傷等の傷害を受け、同月三一日午後零時六分ごろ高松市高松第一病院において死亡した。
二、被告有限会社屋島タクシー(以下単に屋島タクシーという)は自動車による旅客運送業を営む会社であり、被告菰淵運転の前記自動車を所有し、当時自動車を運行の用に供していたものである。
三、(被告菰淵の過失)
被告菰淵は前記道路(巾員約5.6メートル)を東から西に向けやや下り坂を時速約四五キロで進行中、前方右側に美智子ら幼児二、三人が立つているのを発見し、その左側を通過しようとしたのであるから、このような場合被告菰淵としては、美智子らの動向に注意し万一進路上に飛び出したときは、それとの衝突を避けうるよう前方を注視して減速徐行し危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、そのまま進行し、路上に出てきた美智子に自車右前部を衝突させたものである。
四、よつて被告菰淵は民法七〇九条、七一一条により被告屋島タクシーは自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)三条により、それぞれ本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。
五、損害額
(一) 美智子の逸失利益関係
(イ) 美智子は当時満3.5年の健康な女児であつたから、昭和四一年簡易生命表によれば、満三年の女児の平均余命は72.04年であることにかんがみ、なお七二年程度生存しうべかりしものと推定される。
(ロ) しかして原告方家庭の事情および一般の傾向を考慮し、美智子は高等学校卒業後である満一八年から満六三年まで稼働するものと推定される。
(ハ) よつて右期間における美智子の逸失利益(又は稼働能力喪失による損害)を、控え目に計算すると次のとおりである。
すなわち、労働省労働統計調査部編労働統計要覧一九六九年版の労働者の種類、性、学歴および年齢階級別平均現金給与額の製造業、企業規模一〇人以上、昭和四二年四月(労働省・賃金構造基本調査による)(甲第九号証)によれば、女子生産労働者の平均月収は一万八、六〇〇円で年間賞与その他の特別給与額は三万五、四〇〇円であるから平均年収は(18,600円×12+35,400円=258,600円)により二五万八、六〇〇円となる。一方女子管理事務および技術労働者の平均年収は(月収22,800円×12+年間特別給与額55,100円)により三二万八、七〇〇円であるから、右両者を平均した年収二九万三、六五〇円が美智子の全稼働期間を通じての逸失利益と認めて差支えない。
(ニ) ところで美智子の生活費は右稼働期間を通じ収入額の五割を超えないものと見られる。
(ホ) よつて便宜生活費を五割として、これを控除し、前記平均年収二九万三、六五〇円の五割である一四万六、八二五円を平均年間純益とみて、これを稼働期間中毎年末毎に得られるものとして、ホフマン式年毎計算法により前記稼働期間中に得られるべき金額の現価を計算すると、〔146,825円×(27.1047−10.9809)=2,367.247円〕により二三六万七、二四七円となる。
(ヘ) 右は控え目な計算を行なつたのであるが、これを昭和四二年版労働白書付属統計表四二表―二(製造業、年齢および勤続年数別賃金)(労働省・賃金構造基本調査昭和四一年四月)により美智子が満一八歳から継続的に勤務を続けた場合の得べかりし利益をホフマン式年毎計算により現価を算出すると別紙計算書のとおり、金二八六万八、八四六円となる。
(ト) よつて美智子は被告らに対し右逸失利益の範囲内である金二八四万二、二三〇円の損害賠償請求権を取得し、原告らは美智子の相続人として、右金額の二分の一である各金一四二万一、一一五円の損害賠償請求権を相続したものである。
(二) 慰藉料
美智子は当時、満3.5歳の「可愛いさかり」であつて、これを一瞬の事故によつて奪われた原告ら両親の精神的苦痛は甚大であつて、この慰藉料としては各金一五〇万円が相当である。
(三) 原告一雄の支出した葬祭費用
(イ) 葬儀費用 五万円
(ロ) 法要費 三万六、〇〇〇円
(ハ) 仏壇購入費 八万円
(ニ) 墓碑建立費九万三、五〇〇円
合計金 二五万九、五〇〇円
(四) 弁護士費用
被告らは、自賠法による保険金のほか、過少な賠償額を主張して譲らないので、原告らはやむなく昭和四三年五月一三日弁護士佐藤進に委任して本訴を提起した。
その際原告らは右弁護士に着手金一〇万円を支払つたほか、報酬として第一審判決言渡の日に金一〇万円を支払うこととした。
よつて右金額も本件事故によつて原告に生じた損害である。
(五) 原告らは自賠法による保険金一五〇万円の支払を受けたから各金七五万円を原告らの慰藉料に充当した。
右のほか、被告らから合計七万五、〇〇〇円の香典を受領したので、このうち五万円を葬儀費用に残額二万五、〇〇〇円を仏壇購入費用に充当した。
(六) よつて原告らは被告らに対し連帯して次の金員の支払を求める。
原告一雄
原告幸子
1
美智子の請求権の相続分
一四二万一、一一五円
一四二万一、一一五円
2
慰籍料
七五万 円
七五万 円
3
弁護士費用
一〇万 円
一〇万 円
4
葬祭費用
一八万四、五〇〇円
合計
二四五万五、六一五円
二二七万一、一一五円
および(1)(2)右の合計二一七万一、一一五円に対する昭和四二年八月一日から完済まで
右(3)に対する本件一審判決言渡の翌日から完済まで、
各民事法定五分の遅延損害金。
六、被告らの過失相殺の主張については、美智子は当時満3.5歳の幼児であつて、事理の弁識能力がなかつたので、その過失を云々することはできない。
原告らに美智子の監督上の過失があつたとの被告の主張は争う。
第三 被告らの答弁および抗弁
一、請求原因第一、二項の事実は認める。
同第三、四項については、被告ら責任の根拠は不知。
同第五項の損害額については(一)の(イ)の被害者がなお七二年程度生存し得べかりしこと、同(二)の、被害者の生活費が収入の五割を超えないこと、同(ト)のうち、原告らが被害者の相続人であること、以上の事実は認めるが(一)のその余の点は争う。なお美智子の稼働期間については、女性の平均的結婚年齢である満二五歳までであると考える。(二)慰藉料 (三)葬祭費用 (四)弁護士費用の額は争う。(五)の被告らの内入弁済額とその充当関係は認める。
二、過失相殺の主張
原告側にも左記(一)(二)のとおり、被害を避けることについて注意を怠つた過失があるので、原告らの慰藉料額についてこの点を斟酌すべきは勿論美智子の逸失利益の賠償額についても、原告側の過失を斟酌すべきである。
(一) 美智子の不注意
被告菰淵運転の自動車が八栗寺参道の本件事故現場の手前約二二メートルにさしかかつた際事故現場右側の山地商店の店先に三歳ないし五歳位の幼児数人が立つているのを発見したが、子供らは店に向い買い物をしている様子であつたので、そのまま一五メートル進行した。その際前方約一〇メートルのところから被害者が突然斜めに道路を横断しかけたので被告は急ブレーキをかけたが間に合わなかつたものである。すなわち美智子は道路の左右の安全を確認しないで、道路を斜めに横切つて走り出たのであるから、同人にも相当の不注意があつたといわねばならない。
(二) 原告らの過失
原告らは美智子の両親であつて、その監護義務者であるところ、3.5歳の幼児を一人で原告宅から八栗寺参道を横断して斜め向い側の山地商店に買い物に行くにまかせたのであるが、当日七月三〇日はあたかも旧暦の一日であつて、参詣客が多く自動車の往来も激しかつたのに、両親とも当時家事、家業に従事し、安全のための十分な処置を講じなかつたものである。もつとも原告らは、たまたま来訪中の原告幸子の実家の父、中内栄をして、監督補助者として美智子に付添わせていたのであるが、同人は原告方の外れ、山地商店の斜め手前、約二〇メートルのところまで同行したが、不注意にも、自動車が接近しているのに、漫然道路を横断しようとした美智子を制止することも、自動車に合図するなど適切な処置を講ずることもせず本件事故に至つたものであるが、この点も結局監護者たる原告らの責に帰すべきものである。
第四 立証関係<省略>
理由
第一請求原因第一、二項は当事者間に争がない。同第三項の被告菰淵の過失については、同被告は明らかにこれを争わないから自白したものとみなされる。被告会社は自賠法三条但書の免責事由について何ら主張も立証もしない。よつて、請求原因第四項において原告らが主張するとおり、被告菰淵は民法七〇九条、七一一条により、被告会社は自賠法三条によつて、本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償する義務があることになる。
第二原告側の過失について
(一) 美智子は当時満3.5歳の幼児であつたから、いわゆる事理の弁識能力を欠き、危険からの避難につき適切な行動をとる能力を欠くものと認められるから、たとい同女に軽卒な行動があつたからといつて、これを以て過失相殺を論ずることはできない。
(二) <証拠>によれば「事故当日は平日より若干車の往来が多かつたこと、原告方来訪中の原告森本幸子の実家の父中内栄が美智子に付添つて、被告方斜め向い側の山地商店に買い物に出かけたところ、右中内は道路の手前において向い側に渡つた美智子を監視していたが、美智子は左右の確認を怠り、本件自動車が接近しているのに気付かず道路を横断しかけたにも拘らずこれを制止することなく、また自動車に合図して停車せしめる等事故防止に必要な処置をとることを不注意にも怠つた」事実が認められる。しかして右中内はその身分関係にかんがみ、原告らの少くとも黙示の指示に従つて原告らの補助者として美智子の監督に当つていたものと認めるのが相当であり、中内の不注意は結局原告らの責に帰すべきものである。この認定を左右する証拠はない。
(三) ところで民法七二二条二項にいう「被害者に過失ありたるとき」とは、被害者本人が事理の弁識能力を欠く幼児の場合には、その幼児と身分上ないし生活関係上一体をなすものとみられる関係にある者の過失を含むものと解すべきであるから原告ら監護義務者たる両親に監護上の過失があり、かつこれが本件事故発生の一因を与えたことを否定し得ない以上「被害者に過失ありたるとき」として被害者美智子の請求しうる損害賠償額の算定についても斟酌さるべきである。なお原告らが自ら被害者として慰藉料を請求する場合に、右原告ら自身の過失が斟酌されることは言うまでもない。
第三原告らの請求しうべき損害賠償額
一、美智子の逸失利益関係
(一) 美智子が本件事故当時満3.5年であつたこと、同人がなお七二年程度生存し得べかりしこと、その生活費が収入の五割を超えないことについては当事者間に争がない。
(二) 美智子は当時満3.5歳の女児であつたから、十数年後に如何なる職業に就き、何年間稼働し、いつ結婚するか、結婚後も職業に従事するか否か、これらの事実を適格に予測すべき資料はない。このような場合には、信憑すべき統計資料に基づいて、通常の女子労働者の賃金を通常の稼働期間にわたつて取得するものとして計算し推定するのが合理的である。
けだし美智子の場合通常の女子労働者以上の収益を収めると認むべき証拠もなく、又、それ以下の収入しか得られないと認むべき証拠もないからである。
(三) 次に女性が結婚後、家事に専従する場合、主婦の家事労働の収益性を否定し、婦人は無収入となると解する説がある。
なるほど主婦は家事労働により他から対価を取得しないのが普通である。しかしながらそれは家事労働が本来無償のサービスであるからではない。家事労働も主婦の病気、死亡により家政婦により代替的になされる場合には対価が支払われることは言うまでもない。してみれば主婦の労働も、家庭生活のうち家事労働として経済的に評価しうる部分については、家政婦の賃金を下らない相当の対価が支払われて然るべきであるが、家族生活共同体の性格上現実に支払われないだけであつて、その支払を免れた分は、共同体の財産という形で蓄積されたものと認めるのが相当である。
従つて美智子が家事専従の主婦となつた場合にも無収入となるわけではなく、なお家政婦の賃金を下らない準収入があるものと認めるのが相当である。
(四) 美智子が通常の婦人労働(家事労働を含む)に従事するものと推定するならば、その稼働期間としては、原告ら主張の如く満一八歳から六三歳までと認めても決して過大とはいえない。
(五) しかして婦人の場合には一旦職業に就いたとしても比較的短期間に結婚、退職し家事に従事する蓋然性が強いので、男子の場合の如く、継続的に勤務することを前提とし勤続による昇給を十分に見込んで逸失利益を計算することは、特段の事由がないかぎり妥当ではない。
してみれば、原告主婦の(ヘ)の方法によつて美智子の逸失利益を計算し推定することは、この点において失当であり、採用しがたい。
(六) よつて原告ら主婦の控え目な計算方法である(ハ)の方法(<証拠>の統計を基礎とする方法)を基本的には相当と認める。<証拠>によれば、原告ら主張のとおり女子労働者の平均年収は金二五万八、六〇〇円となる。ところで原告は右金額と、<証拠>により算定した管理事務および技術者労務の平均年収金三二万八、七〇〇円との平均を以て美智子の逸失利益計算の基礎とすべしと主張するものであるが、美智子が管理職ないし技術労務者として勤務することを立証する資料がないので、これを基礎とする根拠に乏しい。また両者の平均を基礎とすることも合理性がない。特段の事情がないかぎり、平均的女性の場合を前提として考えると結婚までは継続的に勤務し、その後は家事労働に従事し、かたがた或程度の生産労働に従事するものと考えるのが相当であるが、結婚の時期も不確定であるのみならず、結婚後もなおそれまでの就労状態を継続する者が漸次増加し相当の割合を占めるに至つた今日、本件の場合も、全体的にみれば前記生産労働に従事する婦人の平均賃金を基礎として稼働期間中の得べかりし利益を計算しても、格別合理性に欠けるところはない。
けだし、前認定のとおり、婦人は家事専従の場合にも家政婦の賃金を下らない準収入をあげているものと認められるのであるから、今日、婦人が家事労働のほかに或程度家業に従事し、または内職をする等の生産労働に従事することが多いこと(現に原告幸子も家事の傍ら石材店の家業に従事していることが、<証拠>により認められる)を考慮すると、結婚後の収益も一般生産労働者の平均賃金に準ずるものとみて差支えないからである。
(七) 次に「一般に労働者の初任給は平均賃金より低い反面、次第に昇給するものであることを考えると稼働期間を通じて年々平均賃金を取得するものとして逸失利益を計算することは不合理である」との説がある。しかしながら逸失利益の推算については一時点、一時期において計算上事実に反する点があつても総額の算出手段として全体的にみて合理的であり、結果的に妥当な金額が得られれば足りるのであるから、統計数値の分布状態によつては、平均賃金を年々取得するものと仮定して総額を算出しても、格別不合理な結果は出てこないし、むしろ控え目な計算方法として当然是認さるべき場合が多いと考えられる。
ところで<証拠>によれば、女子生産労働者の賃金は、月間きまつて支給される金額は平均一万八、六〇〇円であるところ、一八歳当時から右平均額に近い数字を示しているのみならず、早くも二〇〜二四歳で二万〇、三〇〇円の最高額に達し、その後四〇年近くも平均賃金と大差のない金額が続いている。また年間特別給与の額もほぼ右と同様のカーブを描いているのであるから、平均賃金によつて、稼働全期間の賃金の合計額を算出することは、簡便なるのみならず、全体的にみて格別合理性に欠けるところはないといわねばならない。
(八) しかして美智子の生活費として収入の五割を控除することについては当事者間に異論がないので、前掲平均年収二五万八、六〇〇円の五割である一二万九、三〇〇円を以て同女の平均年間純益と推定すべきこととなる。
よつて当時満3.5歳であつた美智子の年齢を便宜控え目に満三年とみて、満一八歳に達するまで一五年間は無収入とし、満一八歳以後満六三歳まで四五年間前掲一二万九、三〇〇円を毎年末に取得するものとし、これをホフマン式年毎計算法により年五分の中間利息を控除して事故当時の現価を算出すると、
129,300円×(*27.35−10.98)=
2,116.641円
*法定利率による単利年金現価表の60年の数値と15年(収入のない期間)の数値の差
により金二一一万六、六四一円となる。
(九) よつて美智子の本件事故による過失利益は右金額と推定されるが、前認定の原告ら被害者側の過失を斟酌して、同女が被告らに賠償請求をなし得る金額としては金二〇〇万円を以て相当と認める。
しかして美智子の相続人はその両親である原告ら両名であることは当事者間に争がないので、原告らは右金額の二分の一である各一〇〇万円の損害賠償請求権を相続したものと認められる。右認定を左右する証拠はない。
二、原告らが、3.5歳の可愛いざかりの幼児を不測の事故によつて失つた精神的打撃が甚大であつたことは察するに難くなく、その慰藉料として加害者に請求し得べき金額は、本件事故の態様、原告の家庭の状況その他諸般の事情(前認定の原告らの監護上の過失を含む)を斟酌し、各金一一〇万円を以て相当と認める。
三、原告一雄の支出した葬祭費用について
(イ) 葬式費用
<証拠>により五万円と認められる。
(ロ) 法要費
<証拠>により、美智子の法要については四九日まで七回の回向につき一回一、〇〇〇円のお布施料を支払い、その後も三周忌まで毎月一回五〇〇円を支出するものと認められるが、右のうち金一万円を以て相当額の範囲と認める。
(ハ) 仏壇購入費
<証拠>により八万円を要したことが認められるけれども、これは単に美智子一人の法要のために購入したものではなく、将来他の家族のためにも使用されることは右原告の自供するところであるから八万円のうち二万五、〇〇〇円を以て美智子のために支出された分と認めるのが相当である。
(ニ) 墓碑建立費
<証拠>によれば美智子の墓碑建立費用は九万三、五〇〇円であることが認められる。
右各認定を左右する証拠はない。しかして右葬祭費も本件不測の事故によつて当時原告一雄が支出を余儀なくされたものであつて、相当額の範囲にあるものと認められるから本件事故に因つて生じた損害といわねばならない。
四 弁護士費用
相手方の過失による交通事故によつて損害を受けた者が相手方から容易にその賠償を得られないため弁護士に訴訟の提起を委任したときは、その費用もまた相当と認められる範囲において不法行為と因果関係に立つ損害というべきである。
ところで<証拠>によれば原告らは訴訟外の交渉が難航し訴訟によらなくては相当額の賠償を得られないため、昭和四三年五月一三日弁護士佐藤進に本訴提起を委任し、着手金一〇万円を支払つたほか、本件一審判決の日にさら一〇万円を支払うこととした事実が認められる。しかして(高松弁護士会報酬規程)および本件訴訟の経過にかんがみ右金額は相当と認められる。
五 ところで原告らが自賠法による保険金一五〇万円を受領し、これを各金七五万円ずつを原告らの慰藉料(前認定のとおり各一一〇万円)の一部に充当したこと(従つて残額は各金三五万円となる)被告らから香典金七万五、〇〇〇円を受領し、このうち金五万円を葬儀費に、残額二万五、〇〇〇円を仏壇購入費に充当したことはいずれも当事者間に争がない。
六、してみれば被告らは連帯して原告らに対し左記金員の支払義務があることになる。
原告一雄に対し
原告幸子に対し
1
美智子の逸失利益に
由来する分
一〇〇万円
一〇〇万円
2
慰籍料
三五万円
三五万円
3
葬祭費用
法要費 一万円
墓碑建立費 九万三、五〇〇円
ナシ
4
弁護士費用
一〇万円
一〇万円
合計
一五五万三、五〇〇円
一四五万円
および右(1)(2)合計各金一三五万円に対する本件不法行為より後である昭和四二年八月一日から、右(4)の各金一〇万円に対する第一審判決言渡の翌日である昭和四四年八月二八日から、各完済まで民事法定年五分の遅延損害金
よつて、原告らの請求は前項記載の金額の範囲において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法八九条、九三条一項但書を適用して主文のとおり判決する。なお仮執行の宣言は必要なきものと認め、これを付さない。(梶田寿雄)
(別紙)
森本美智子の得べかりし利益計算書
(昭和42年版労働白書付属統計表第42表―2による)
事故後年数
年齢
勤務年数
月収(円)
得べかりし利益の現在価額
15
18
0
16,100
173,200×0.5714=98,966
16
19
1
17,300
207,600×0.5555=115,321
17
20
2
18,200
18
21
3
〃
218,400×1.0669=233,010
19
22
4
18,900
20
23
5
〃
226,800×1.0068=228,342
21
24
6
20,300
246,000×0.5006=123,147
22
25
7
22,500
23
26
8
〃
24
27
9
〃
270,000×1.2959=349,893
25
28
10
23,800
26
29
11
〃
285,600×0.8792=251,099
27
30
12
26,200
28
31
13
〃
29
32
14
〃
314,400×1.25=393,000
30
33
15
27,600
31
34
16
〃
331,200×0.7921=262,344
32
35
17
30,600
33
36
18
〃
34
37
19
〃
367,200×1.132=415,670
35
38
20
34,400
36
39
21
〃
412,800×0.7207=297.504
37
40
22
35,500
38
41
23
〃
39
42
24
〃
40
43
25
〃
41
44
26
〃
42
45
27
〃
43
46
28
〃
44
47
29
〃
426,000×2.6485=1,128,181
45
48
30
34,800
46
49
31
〃
417,600×0.610=254,736
47
50
32
34,600
48
51
33
〃
49
52
34
〃
50
53
35
〃
51
54
36
〃
52
55
37
〃
53
56
38
〃
54
57
39
〃
55
58
40
〃
56
59
41
〃
57
60
42
〃
58
61
43
〃
59
62
44
〃
60
63
45
〃
415,200×3.821=1,586,649
計5,737,692円 ÷2=2,868,846円